今朝、レンタル暗室のテラコへ向かう阪急電車で、突然車両じゅうの携帯から警報が鳴った。
刹那心身が硬直したが、画面をよく見ると訓練なのだとわかった。

 

2011年3月11日

私は二十六歳で、進路未定のまま大学の卒業を間近に控えており、
その日は二回目か三回目の千代田区にある出版社でのアルバイトに出掛けていた。
口約束みたいな人づてにもらった仕事で、ごく簡単な編集の補助業務だった。
出勤途中に小学校の塀に鳩が尋常ではない様子でモゴモゴ蝟集していたのを見て
二回シャッターを切った。モノクロフィルムが入っていた。

午後二時四十六分には、本に載せる店の住所や電話番号に間違いがないか、客を装い
時に訝しがられながら電話確認する作業をしていた。
すぐに揺れはおさまると思って平静を装い通話を続けたが、
そのうち尋常ではない未体験の横揺れになり
「すみません大きい地震がきたので切ります!」と一方的に電話を切った。

反射的に机の下に潜った。上からばさばさと物が落ちていく。
その状態で、斜め向かいの机の下にいる同年代の社員と目が合い、
互いにこわばった顔でつい会釈をした。

古いビルでも崩れることはなく、一時公園へ避難したがじきに戻り、
私に指示を出していた編集者は子供を迎えに早退してしまった。
JRが麻痺したことは早い段階で分かり、知る人もいないその会社に泊まることになった。
やるべきこともやれることもなくただ目の前にPCがあったので、
被災地の惨状をライブで見続けることになった。

夜になってコンビニに食べるものを買いに行ったが棚がガラガラでろくなものが残っていない。
ふだんは選ばない種類のカップ麺一個を買った。
多くはないが何人か他にも帰れない人がいて、お母さんみたいな社員がお菓子を分けてくれた。
おじさん社員は数人でワインを飲んだりしていた。
建物はふらふらと揺れ続けた。私も時々ふらふら歩いて外を眺めたりした。
携帯の警報があちこちで鳴り続けた。

朝からハードコンタクトをし続けていたから目がしばしばする。
携帯の充電器とコンタクトのケースとメガネ、持っていればよかった。
家族と恋人が心配だ。
恋人はチーズ工場に派遣のバイトと言っていたからチーズに埋もれてしまったかもしれない。

ほとんど寝ずに夜が明けた。
朝方やっと恋人に電話が繋がったが、こちらの心配も知らず呑気な反応で拍子抜けした。
地下鉄の駅まで歩いて楽しかったとか。

電車が動き出したようなので、とりあえず秋葉原駅まで歩くことにした。
駅のホームが見えるカフェが営業しており、そこでモーニングを食べながら
埼玉へ下る京浜東北線の様子を凝視するが混雑がひどくてとても乗れそうにない。
隣にいた人に何か尋ねた記憶がある。人との距離が平時と違っていた。

秋葉原から帰るのは不可能と判断し上野まで歩いてみる。
上野駅の外まで人の列があふれているのを見て、ここから帰るのも諦める。

さらに隣駅の日暮里へ行くことにした。もう裸眼で、這々の体で歩いていた。
谷中霊園の墓石がバタバタと倒れていて、ああすごい地震があったんだと思った。

日暮里駅は混んでいなかったが入ってくる電車が満員もいいところだった。
数本見送るも、状況が変わらないので無理矢理押し乗った。

とつぜん非日常に放り込まれ、当時の日常そのものであった母に会いたくてしょうがなかった。
午前中には帰ることができ、母と祖母が待っていたいつもの茶の間にひどく安心した。
二人ともわりとへらへらしていた。

それからいろんなものが少しずつ意味を変えたいびつな日常に入る。

 

以来、八年たった今でも外出先が歩いて帰れる範囲でなければ
携帯の充電器とコンタクトのケースとメガネだけは必ず持って行く。
本来わたしはそんなまめな人間ではないので、その瞬間いつも思い出してしまう。

最近二冊の関連本を読んだためか鮮明になった記憶を書き起こした。
「南三陸日記」三浦英之(集英社文庫)
「あの日からの或る日の絵とことば」筒井大介編(創元社)
震災から間もなく書かれたとても近くの言葉と、
時間が経ってから編まれたそこまで近くはない言葉。

 

 

 

「千年写真室」というものをはじめました。

一人出張写真室といえば伝わるでしょうか。

個人の方向けのスナップフォトサービスです。

基本的にデータのみではなく

アルバムなどの形にしてお届けできればと思います。

 

 

 

 

信頼の村上製本さんから
ちかくの記念写真館のための特製台紙が届きました

美しいまっさらの美濃和紙でくるんでいます

写真館のご予約は塩屋の食と空間「flag」
flagginshioya@gmail.com まで

 

 

 

『ちかくの記念写真館』

 

ヘアスタイリストの久美子さん
yumahareの佳織さんとともに開く
ふつうの日のための写真館です

 

久美子さんは美容室が苦手な人も心地よく髪をまかせられるお方です
私も写真が苦手という方によろこんでいただけることがけっこうあります
佳織さんはたくさんの植物を連れて四万十から帰ってきます
10月の佳き日
どなたもお誘い合わせのうえ もちろんお一人でも ぜひお出かけください

 

◉お時間(10/20,21両日とも)
10時〜 11時〜 12時〜 13時半〜(21日×) 14時半〜(21日×)
上記よりご都合の良い時間をお選びください
ヘアスタイリング〜撮影の所要時間は約1時間です
撮影後にほっと休憩できるflagのお茶菓子をご用意いたします

 

◉ご予約
代表者様のご氏名/ご希望の日時(第1,第2希望)/写真に写る予定の人数
上記3点をflagginshioya@gmail.comへメールにてお知らせください
詳細のメールを返させていただきます

 

撮影はフィルムカメラで行います
暗室で1枚1枚手焼きした六切プリントを
信頼の村上製本の特製台紙におさめてお渡しします

portrait.

住む町塩屋で2月に楽しみなイベントがあります

関わっているので 来ていただけるとうれしいです

http://www.nedogu.com/blog/archives/19614

 

 

海と山の境に人が住み、絵や音楽や食べ物を作って暮らしている。

生まれてからずっと、海からも山からも遠い平野にいた。

そこも海と山との境には違いないが、

人のやっている事も、いきものの仕草も、広すぎてよく見えなかった。

塩屋はとても細い境だから、異界からいろんなものが迷い込んでくる。

 

2016年5月、初めて訪れた塩屋の谷川には大きな鯉のぼりが泳いでいた。

細い路地のような商店街があった。緑と潮を含んだ光が明るかった。

こんな町に住んでいいんだろうかってにこにこしながら、

高いところから低いところまで歩き回った。

7月、買ったばかりの箒一本だけ持って戻ってきた朝方の塩屋谷川には、

いっぱいの七夕飾りが強い風に揺れていた。

 

それからの1年でひろったものをここに集めた。

 

 

加納千尋 写真展「ひろったような、」 10/16(月)~11/11(土)

会場: 784 JUNCTION CAFE

9:00 – 18:00 (1drink order)

日休・月不定休(会期中の月曜は10/23休)

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